【掲載日】2026/01/31
認知症の薬とは?種類や治療方法を徹底解説
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少子高齢化が進む現代の日本において、認知症は本人はもとより、それを取り巻く家族・会社など周囲にも大きな影響を与えるため深刻な問題となっています。近年では若年性アルツハイマー型認知症なども増加している傾向で、治療法についても注目されており日々研究が重ねられています。しかしながら、現在においては完治するための治療法はまだ確立されておらず、症状の進行を遅らせるための治療法が中心となっています。現在における認知症の薬や治療方法などについてまとめましたので、読者の皆さまにとって何らかのご参考になりましたら幸いです。
そもそも認知症とは何?
「認知症」は、病名ではなく総称した呼び方です。様々な病気により、脳の神経細胞の働きが弱まり、記憶力や判断力が低下して日常生活に支障を来たす状態のことを指します。
認知症のタイプにはアルツハイマー型、レビー小体型、血管性、前頭側頭型の4種類があり、このうち日本ではアルツハイマー型認知症が全体の6割以上と最も多い比率を占めています。(政府広報オンラインより)。厚生労働省の発表によると2022年に実施した調査において、日本の65歳以上の高齢者3603万人に対し、認知症の有病率は12.3%、人口にすると約443万人でした。また、認知症予備軍といわれているMCI(軽度認知症)とされている高齢者数は559万人という調査結果が出ています。これが2040年になると、認知症者高齢者数は584.2万人、MCI高齢者数は612.8万人という推計がなされています。認知症が進行する最大の原因としては加齢が挙げられますので、高齢化が進むと認知症の患者数も増加するということが言えるでしょう。そして近年では、64歳以下の若年性アルツハイマー型認知症の患者数も増加傾向にあります。アルツハイマー病は脳内にアミロイドβというタンパク質が蓄積することで発症するとされていますが、これを引き起こす要因としては加齢の他に、生活習慣病や運動不足、他者とのコミュニケーション不足による脳活性化の機会の減少などがあります。若年性の場合、特に現役世代は認知症と思い至らないケースが多いため早期発見しづらく気づいた時には進行が進んでしまっていることも少なくないようです。進行度によっては休職や退職を余儀なくされることもあり、生活面や子どもの進学などにも経済的に大きな影響を与えてしまうといった特有の問題が多くあることから社会的にもサポート体制が必要な病気とされています。認知症の前段階であるMCI(軽度認知症)から認知症に移行する率は年間で5~15%とされています。(日本神経学会「認知症疾患診療ガイドライン2017」)。この移行期に適切な対策や予防に取り組むことで健常な状態へと回復する可能性もあるため、この時期にどういった対策をするかが非常に重要で今もなお、研究が続けられています。
認知症は治療が可能?
認知症は本人以外の周囲にも影響を与える深刻な問題ですが、現在における治療法にはどういったものがあるのか、完治させることはできるのか、といったことについて以下にまとめました。
認知症はもの忘れとは異なる病気である
加齢に伴い、もの忘れが増えてくると「もしかして認知症かも?」と感じる方も多いかと思います。もの忘れには「加齢によるもの忘れ」と「認知症によるもの忘れ」があり根本的に性質に違いがあります。
厚生労働省 「認知症ケア法-認知症の理解」より
■加齢によるもの忘れ
・体験の一部を忘れる(朝食で何を食べたか思い出せない)
・ヒントを与えられると思い出せる
・時間や場所など見当がつく
・日常生活に支障はない
・もの忘れに対し自覚がある
■認知症のもの忘れ
・体験したこと自体を忘れる(朝食を食べたこと自体を忘れ催促してしまう)
・新しい出来事を記憶できない(友人と会う約束自体を忘れてしまう)
・ヒントを与えられても思い出せない
・時間や場所などの見当がつかない
・日常生活に支障がある
・もの忘れに対して自覚がない
「最近もの忘れが多く、認知症かもしれない」と不安に感じる方も多いと思いますが、自覚があるという点で多くの場合は加齢によるもの忘れのことが多いようです。しかしながら、認知症の早期発見につなげるためには、認知症と思われるような言動が複数思い当たらないかチェックするとともに、自分以外にも家族や周囲の人にも普段から気にしてもらったり早めに専門医に相談することが大切です。認知症に移行する前の段階で早期発見・早期治療を始めることで、その後の認知機能の低下を押さえたり、場合によっては健常な状態に戻したりすることも可能とも言われています。「以前と違う」と不安がある場合は早めに対処するようにしましょう。
現在、アルツハイマー型認知症などの根本療法はない
アルツハイマー型認知症は、「アミロイドβ」「リン酸化タウ」というタンパク質が長い年月をかけて脳に溜まり、神経細胞を破壊することで脳が委縮することで発症します。そして時間の経過とともに脳の萎縮も進み症状が進行していきます。現時点では症状を完全に治す薬や術はありません。しかし、薬物療法や非薬物療法によって症状の進行を遅らせることは可能で、特にMCI(軽度認知症)と呼ばれる認知症の前段階の時期に適切な治療を行えば症状の進行を抑えたり、場合によっては脳の機能を健常な状態に戻せることもあるようです。
種類によって認知症は治療が可能である
認知症には原因によって複数の種類があり、主に4種類に分かれています。
■アルツハイマー型認知症
・認知症患者全体のうち67%を占め、患者比率は男性より女性の方が高い。
・脳の神経に「アミロイドβ」「リン酸化タウ」というタンパク質が蓄積し、健康な神経細胞の働きが弱まることで脳細胞が死んでしまい認知機能が低下していく。
【初期】もの忘れ(最近の出来事を忘れてしまう・待ち合わせを覚えていないなど)が目立つ、昼夜・日にち・季節の取り違え、順序だてて料理や家事ができなくなる。
【中期】怒りっぽくなる、ご飯を食べたこと自体を覚えていない、知っている人が誰かわからない、知っている道なのに迷う、着替えに支障が出てくる。
【後期】家族が誰かわからない、靴を反対に履く、排泄物を手で触る、食べ物でないものを口に入れる。
■血管性認知症
・認知症患者の約2割を占め、脳血管障害(脳梗塞・脳出血・くも膜下出血など)に起因する認知症で、患者比率は女性より男性の方が高い。
・脳血管障害により、脳の中で障害がある部分と正常な部分がまだら状に分布することから、まだら認知症とも呼ばれている。
・調子の波が大きく、午前中はできたのに午後はできない、ということがあったり、他の能力は保たれているのに一部の認知機能が低下するなど、できることとできないことが混在する状態。
・一度生じた認知症を画期的に治す方法は確立されていないが、繰り返す脳梗塞により状態は悪化するため、リハビリをしながら高血圧薬や脳血流改善薬を服薬するといったように脳血管障害の再発を予防することが重要とされている。
【初期】記憶障害によるもの忘れ、意欲の低下、運動機能に異常がないのに簡単な動作ができなくなる(ボタンをかけられない、ズボンを下せない)、本人が症状に対していら立ちを感じ抑うつや怒りの感情が目出つ、調子の波が大きい。
【中期以降】急激な症状の悪化はないものの、自覚症状のない小さな梗塞が起こるたびに症状は悪化する。徐々に嚥下障害・歩行障害・排尿障害がみられるようになり、後期になると運動障害・認知機能障害も重度になるため、寝たきりで常時介護が必要になることも少なくない。脳血管障害の再発を防止することが進行を食い止めるカギとなる。
■レビー小体型認知症
・前兆として「レム睡眠行動障害」があり、大声の寝言や手足を激しく動かすなどの行動がみられる。
・レビー小体と呼ばれるタンパク質の塊が脳細胞を壊すことで発症する認知症。
・40代から発症することもあり、男性の発症リスクは女性の2倍ともいわれている。
・レビー小体は、大脳皮質にできるとレビー小体型認知症、脳幹に増えるとパーキンソン病になる。
・アルツハイマー型認知症や血管性認知症と比べて進行のスピードが早く、発症してからの平均寿命が短い。
【初期】認知機能の低下、幻視・幻覚、パーキンソン症状(手足の震え・歩幅が小さくなる・姿勢のバランスが悪くなるなど)
【中期以降】認知機能の変動が大きくなる(特に夕方に悪化する傾向)、自律神経機能の低下(便秘・ふらつき・立ちくらみ・頻繁な幻視など)、嚥下機能の低下など。
■前頭側頭型認知症
・平均的な発症年齢は55歳ごろと若年層に多い。
・国の難病指定がされている。
・前頭葉(人格や行動をつかさどる部分)や側頭葉(言語をつかさどる)の萎縮が原因で起こる認知症で、発症すると社会的行動が取れなくなったり身だしなみに気を配れなくなったりする。
・進行が進むと、徐々に無気力になる傾向がある。
【初期】理性的な行動ができない(万引き・信号無視・暴力など)、常同行動(同じ行動や言葉を繰り返す)、身だしなみに無関心になる。
【中期以降】言語障害・自発性の低下(抑うつ状態・無気力)
上記4種類の認知症は、根本的な治療方法は現在のところ確立されていません。
一方で、水頭症、慢性硬膜下血腫、脳腫瘍などに起因する脳の圧迫など、二次的・間接的な影響で認知症を呈している場合には、原因となっている病気に対し外科的治療を行うことで認知症の症状が回復することもあります。他にもビタミン欠乏症・甲状腺機能低下症といった体の病気や、うつ病・てんかん・せん妄などの精神系の病気から、認知機能が低下することもあり、それらについても原因となる病気の治療を行うことで認知機能の回復が期待できると考えられています。また、認知症の前段階とされている軽度認知障害(MCI)の状態の時に早期に適切な対策を講じると、脳の状態を健常な状態にまで回復させられる見込みが高まるとされています。
認知症の主な症状
認知症には、中核症状(脳細胞が壊れることにより直接的に起こる症状)と、周辺症状(中核症状のさまざまな要因が重なることによって間接的に引き起こされる症状)の2種類の症状があり、認知症の種類によっても症状に違いが見られます。
認知症とは、脳の病気や障害によって脳の神経細胞の働きが弱まり、記憶力や判断力などの認知機能が低下して日常生活に支障をきたしている状態のことをいいますが、先に述べたように認知症にはいくつか種類があり、それによって症状は異なります。また、症状の進行度合いによっても症状は変わっていきます。以下に認知症の主な症状とそれに付随する周辺症状をまとめました。
認知機能の低下(中核症状)
・記憶障害:新しい情報や出来事を覚えることができなくなり、徐々に短期記憶の低下から長期記憶、エピソード記憶へと障害が広がっていく
・見当識障害:時間・日付・今いる場所・人間関係などを正確に把握できない
・理解・判断力の低下:物事を理解するのに時間がかかり、適切な判断ができなくなる障害。自動販売機で買い物をすることや、ATMの操作も困難になる
・実行機能障害:見通しを立てて実行することが難しくなる。料理の献立を考えて買い物をすることや、料理の手順を間違えるなど
・失語:「聞く」「話す」「書く」「読む」といった日常生活で必要なコミュニケーションができなくなる
・失行:テレビをつける、着替えをするといった今まで普通にできていたことができなくなる
・失認:家族を見ても家族だとわからないというようにモノや人物を認識できなくなる
・運動麻痺:自分の力で手足を動かせなくなる(箸が使えなくなる、靴の紐が結べない)など
・感情失禁:今までできていたことができなくなってきたという自分自身の認識により、ストレスなどから感情のコントロールが難しくなる
・嚥下障害:うまく食べ物を飲み込むことができなくなる
・せん妄:会話がかみ合わなくなったり、急に怒り始めたりする。夜間にかけて悪化する「夜間せん妄」のケースが多いが翌朝になると普段通りに戻っているといったように、状態に変動がみられる。
認知症の種類と現れる中核症状
■アルツハイマー型認知症
代表的な中核症状としては記憶障害で初期の段階から見られます。それ以外に見当識障害・失語・失行・失認が見られます。
■血管性認知症の症状
主な症状は記憶障害と実行機能障害となりますが、アルツハイマー型より記憶障害は軽い傾向があります。脳の血管が障害されることで生じる認知症のため、一部の認知機能は維持されているケースもあります。(まだら認知症)
■レビー小体型認知症の症状
初期の記憶障害はアルツハイマー型より軽い傾向があります。その他の中核症状に加え、幻視・パーキンソン症状・レム睡眠行動障害が見られます。初期段階では認知機能障害が目立たず、うつ病や別の精神疾患と診断されてしまうことも多く、初期段階での診断が難しいことも特徴的です。
■前頭側頭型認知症の症状
中核症状としては失語や失行、軽度の記憶障害が挙げられますが、感情の抑制ができず社会的な不適切行為に及ぶこともあり、異常行動のような症状が特徴的で精神疾患と診断されてしまうこともあるようです。
周辺症状
認知症の周辺症状とは、上記の中核症状に付随して二次的に引き起こされるものをいいます。本人の生活環境や人間関係など複数の要因が絡み合って起こる為、個人差も大きく、現れ方や症状の程度なども変わってきます。行動・心理症状が多くBehavioral and Psychological Symptoms of Dementiaの略でBPSDと呼ばれることもあります。
・行動障害:暴力・暴言・徘徊・介護拒否
・精神障害:妄想・幻覚
・感情障害:不安・抑うつ状態
・意欲の障害:意欲低下・意欲亢進
認知症における薬や手術による治療方法について
認知症の治療は、現在もなお日々研究が続けられていますが、今現在における治療薬にはどういったものがあるのか、また手術で治る認知症があるのかなどを調査しましたので以下にまとめていきます。
保険適用の抗認知症薬
アルツハイマー型認知症における治療薬はこれまで、症状を一時的に緩和する目的の薬はありましたが病気の進行を根本的に止める効果はありませんでした。近年、日本では従来の薬とは全く異なる新しい薬が開発され、令和5年12月20日に「レカネマブ」(販売名:レケンビⓇ点滴静注)が、令和6年11月26日に「ドナネマブ」(販売名:ケサンラⓇ点滴静注液)が販売開始されました。どちらも保険適用となっており、アルツハイマー型認知症の原因物質であるアミロイドβを脳から除去するという、病気の原因に直接働きかけることができる薬のため、病気の進行を抑制することが期待されています。
2つの薬の大きな違いとしては投与頻度で、レカネマブは2週間に1回(投与期間は原則1年半)、ドナネマブは1か月に1回(投与期間は最長で1年半となりアミロイドβが除去されたことが確認できれば完了)となっています。
どちらの薬も、壊れた脳神経細胞を元に戻す効果はなく、症状が進んだ人には使えません。投与の対象となるのはアルツハイマー病による軽度認知障害(MCI)または軽度アルツハイマー型認知症と診断された方で、投与対象者かどうかは治療前に心理検査、認知症の重症度の判定、脳MRI検査、バイオマーカー検査を行い判断されます。
認知症の治療に使用されるその他の薬
上記の薬以外に認知症に使用されている薬としては、認知症の進行を緩やかにするものや、神経活動のバランスを調整することで症状を和らげることを目的として現在は3種類ほどがあります。
・アリセプト®(塩酸ドネペジル)
アルツハイマー型認知症のほか唯一、レビー小体型認知症の薬としても認証されている薬で「アセチルコリン」という神経伝達物質の働きを助け、認知障害を緩和する効果があるとされています。脳内でドーパミンが増加するため、興奮して暴れ出したり幻覚・妄想などが引き起こされるなどの副作用の可能性もあります。
・イクセロン®パッチ・リバスタッチ®パッチ(リバスチグミン)
脳内のアセチルコリンの量を増やし神経の情報伝達を促進する作用があり、認知症の進行を遅らせる効果があるとされています。フィルム型の貼り薬で1日1回貼るだけなので家族や介護者の負担が軽減されることも良い点といえるでしょう。
・メマリー®(メマンチン)
脳内のグルタミン酸という興奮性の神経伝達物質の働きを抑制する効果があるため、アルツハイマー型認知症の症状を軽くするほか、行動異常や心理症状の抑制にも効果が期待できると言われています。アルツハイマー型認知症の中等度や高度の段階で症状の進行を抑制するために使用されることがあります。副作用としてめまいが出やすいという点で、転倒に繋がる可能性があるため注意が必要です。
・レミニール
販売終了
手術による治療方法
認知症には代表的なものとしてアルツハイマー型認知症・血管性認知症・レビー小体型認知症・前頭側頭型認知症の4種類の認知症がありますが、それらの治療法は現代において根治させる方法はなく症状の進行を抑えることに留まります。それ以外に水頭症、慢性硬膜下血腫、脳腫瘍などに起因する脳の圧迫など、二次的・間接的な影響で認知症を呈している場合には、原因となっている病気に対し外科的治療を行うことで認知症の症状が回復することもあります。例えば、CT、MRI検査で慢性硬膜下血腫と診断されると、血腫の除去手術が行われます。術後、脳の圧迫がなくなるとそれまでに出ていた歩行障害や日付がわからないなどの認知症状も改善されることも多いようです。また、水頭症は脳を保護している”脳脊髄液”が必要以上に増加し脳に負担をかけてしまい、物忘れ・歩行障害・失禁などの症状が出る病気です。頭部MRIやCTで画像評価を行い、髄液タップテスト(髄液排除試験)という検査を行って認知症や歩行障害に改善が見られると、シャント術という頭蓋内に過剰に貯まった髄液を腹腔内に流す手術を行います。術後は脳室が縮小し、それまで出ていた認知症状や歩行障害・尿失禁症状なども改善が期待されます。
薬を使用しない認知症の治療方法
認知症の治療において、薬物療法は主軸となるものですが、それに並行して非薬物療法も重要とされています。これは、認知症の症状はご本人の性格や生活面・対人関係・家族との関係性など本人を取り巻く周囲の環境によって一人ひとり症状の表れ方も様々なため、それぞれに合ったケアが大切と考えられている為です。非薬物療法には、脳を活性化させたり精神を安定させたりする効果があり、その人に合った、本人の能力や好きなことを活かした療法を行うことが多いです。ここでは薬を用いない、認知症に対する非薬物療法にどんなものがあるのかをご紹介していきます。
認知刺激療法
記憶力や集中力・注意力・情報処理能力を高める目的で行うもので、トランプや簡単な計算、数字を使ったゲームなどを行います。脳を鍛えることで脳機能の低下を防止する効果があると言われていますが、それだけでなくグループ活動を通じて、自発性の向上や感情障害の改善など社会機能の改善にも効果があるとされています。
リアリティオリエンテーション(現実見当識訓練)
見当識障害で見られる、時間や場所が認識できなくなる症状に対し、「今日は何月何日か」、「ここはどこか」など自分の置かれている状況を正しく認識する能力の訓練です。グループ形式で行うことが多く、見当識障害の改善だけでなく人とのコミュニケーションを図ることができる点でも効果が期待されています。
回想法
非薬物療法の中で、よく取り入れられている療法です。認知症の人は、近い記憶より昔の記憶の方がしっかりと残っていることが多いです。回想法は、1対1または少人数のグループで行い、若いころの思い出を語ったり、昔見た映画などを鑑賞したりして、その場にいる人たちとコミュニケーションを図ります。同じ世代だからこそ共感できることも多く、人と会話することの楽しさを再認識したり、人と話すことで脳が刺激され活性化します。ただし、相手の人の話を否定したりプライバシーの侵害や気分を害する言動を行わないようにするなどの配慮が必要です。
運動療法
非薬物療法の中で最も推奨されているのがこの方法です。運動は生活習慣病や脳卒中の予防にも効果的ですが、体を動かすことは脳機能の活性化にも繋がり、認知症の治療としても非常に効果があると考えられています。有酸素運動(ウオーキング・水泳など)、筋力強化訓練(軽い筋トレ)、平衡感覚訓練(バランス力)を組み合わせ、体力や健康状態を考慮しながら無理のない範囲で取り入れていきます。また、理学療法・作業療法のように、理学療法士や作業療法士が提案する、ごくわずかな運動を取り入れた療法もあり、大きく体は動かさなくとも指や手の動きを使って脳への刺激をうながす方法もあります。
音楽療法
音楽を聴く、歌を歌う、楽器を演奏するなどの行為は、脳を活性化させると同時に心の安定や自発性の向上など様々な効果が期待できると考えられています。また、リズムに合わせて体を動かすといったリズム運動は運動療法にも繋がるため、この音楽療法は色々な点で認知症の改善に役立つとされています。
バリデーション療法
『バリデーション(validation)』とは「承認」「確認」という意味で、バリデーション療法とは、認知症の方の感情や言動を否定することなく理解する姿勢を示すことで感情表出を促す療法です。聞く側の傾聴と共感によって、本人の感情があらわになりくすぶっていた気持ちにも整理がつきます。そしてその感情を周囲に受け入れてもらえることで自信や尊厳の回復に繋がります。また、この療法は認知症の方だけでなく、その家族や普段から関わっている介護職員にも大きな影響があり、認知症の方の言動に対し理解や共感を持ち寄り添うことでお互いの信頼関係の向上へと繋がり、良い関係が保てるといった効果が得られると考えられています。
園芸療法
花や野菜を育てるといった園芸療法は、世話をした植物の成長や収穫を楽しんだり、季節感や水やりの時間帯の把握、屋外に出ることで風を感じ、鳥のさえずりを聴くなどの他、土の感触・水の冷たさなど、五感がフルに刺激され脳が活性化されます。また、スコップを持って作業するなどは運動にも繋がり、園芸を通じて他者とのコミュニケーションや植物が成長することで得られる達成感にも繋がります。
アニマルセラピー
施設に入所されていたり、自宅にいても家族や友人との会話が減りがちな高齢者の方は、コミュニケーションの機会が減り表情の変化も乏しくなっていきます。アニマルセラピーによって、犬や猫と触れ合うことにより、自然と笑顔がこぼれたり表情が柔らかくなったりと精神的な安定をもたらす効果が生まれます。施設では、セラピードッグの訪問によるアニマルセラピーを実施しているところもあり、普段あまり自発性のない人でも犬への興味を示して犬をなでたり抱っこするという運動機能の向上や、犬へ話しかけたり、また犬の話題を通して周囲の人たちとの間に会話が増えたりと、コミュニケーションの拡大や社会性の向上にも繋がることが期待されています。
アロマテラピー
アロマ療法とも呼ばれ、植物から抽出した精油を使用して、香りそのものを楽しんだり精油でマッサージを行ったりします。一般的に、香りによって脳が刺激を受け、興奮状態や睡眠障害の改善に効果があると言われています。ただし認知症における非薬物療法としての効果が期待できるのはアルツハイマー型認知症の患者のみです。アルツハイマー型認知症は、物忘れよりも先に嗅覚機能が低下することが明らかになっており、この嗅覚を司る神経は海馬と繋がっているため、アロマによって嗅覚を刺激することは海馬の活性化にも効果が期待できると考えられています。
アートセラピー
芸術療法とも呼ばれ、絵画や造形活動、音楽、ダンス、俳句などの芸術的な活動を行うことで、脳の活性化や精神的な安定に効果があると考えられています。創作活動は、手の運動の他、視覚や触覚を使うことで脳への刺激が促されます。また、他の方と一緒に活動することで会話が増えたり、完成した作品について身近な人たちと鑑賞しながら創作過程を振り返って会話が生まれたりします。上手に制作することが目的ではなく、創造性を刺激し各々の感情を表現してもらうことで精神の安定にも繋がると言われています。
認知症の疑いがある場合の対応方法
自分が認知症かもしれないと自分自身で感じる時の対応としてまず何をしたら良いでしょうか。また、身近な人に認知症の疑いがある場合、どのように対応するのが良いでしょうか。
自分が認知症かもしれないと感じた時の対応
加齢に伴い、「自分は認知症かもしれない」と思い悩む方も多いと思いますが、自覚がある点で多くの場合は加齢によるもの忘れであることが多いようです。しかしながら、最近の自分自身の言動や記憶を振り返り、次のような思い当たる点がないかチェックすることも大切です。
■もの忘れ:夕食を食べたこと自体を忘れており、家族に指摘された
■理解力・判断力の低下:家族との会話についていけなくなる、買い物時の金額計算が素早くできなくなっている
■集中力・注意力の低下:これまで読んでいた新聞や本を読まなくなった、以前はできていた家事に手間取るようになった
また、自分だけでなく家族や身近な人にも普段から気にしてもらうことや、かかりつけ医への相談、「もの忘れ外来」の受診など早めに行うことが良いでしょう。
身近な人に認知症の疑いがある際の対応
自分の家族が認知症かもしれないと感じた際、次のような点に思いあたる節があった場合は、「もの忘れ外来」やかかりつけ医に相談するようにしましょう。
■これまで温厚な性格だったのに急に怒りっぽくなった
■身だしなみに無頓着になった
■趣味だった活動を急にやめてしまった
■落ち込むことが増え、やる気や意欲が低下するようになった
■何月何日かがわからない、同じことを何度も尋ねるようになった
これらは、身近にいる家族が対象となる方と定期的に会話をもつことで、認知症の兆候や始まりの段階で早期に気づくことができます。同居する家族に心配な方がいる場合は、定期的に会話することを心がけましょう。
職場の人で、以前では考えられないようなミスが続いていたり、仕事へのモチベーションや行動力がなくなってきている、顧客とのアポイントを忘れることが重なるなど、認知症が疑われる場合、直接本人に言える関係性であれば専門医の受診を勧めたり、受診時に一緒に付き添い客観的な目線で情報を提供することも有効となるでしょう。本人に言いづらい場合は、企業の産業医や上司などに共有し、お互いが働きやすい環境にするためにも適切な検査や処置を受けてもらうようにしましょう。
ご近所のよく立ち話をする方や、昔から知っている高齢の方に対しても、「こんな人じゃなかったのに」と感じたり、あまり笑わなくなった、以前会話したことをすっかり忘れている、など今までと違う違和感を感じたら認知症の初期症状であるかもしれません。ご家族に伝えたり、近親者に伝えるのが難しい場合は地域全体で共有してサポートする、また地域包括支援センターなどと連携を取ることも有効です。温かく見守りながら早めに検査が受けられるように誘導してあげられると良いでしょう。
認知症の薬に関する質問
認知症で使用される薬について、よくある質問をまとめました。
認知症は薬を飲めば治りますか
現在においては、認知症を根本的に治療する薬はなく、脳の神経細胞を再生させるような薬もありませんが、認知症の種類によっては進行を遅くすることに有効とされる薬はあります。
認知症の薬にはどんな効果があるのでしょうか
現在においては、認知症の進行を遅らせる効果のある薬があります。また、認知症により脳全体の活動が低下してしまうと、やる気がなくなりうつ状態になったり、脳細胞のバランスが崩れることでイライラして怒りっぽくなったりします。そういった周辺症状を緩和させるための薬もあります。
今現在の、認知症で用いられる薬を教えてください
■認知症の原因となる脳内のたんぱく質を除去する薬
【抗アミロイドβ抗体(レカネマブ、ドナネマブ)】
アルツハイマー型認知症の原因とされている、脳内物質「アミロイドβ」に作用し、蓄積したその物質にくっついて除去します。これにより認知症の進行を抑制することができると考えられています。これを使用できる対象となる人は、「アルツハイマー病による軽度認知障害(MCI)」、または「軽度アルツハイマー型認知症」と診断された方です。
■脳の神経伝達を整える薬
【アセチルコリンエステラーゼ阻害薬】
脳内で情報を伝える役割を果たしているアセチルコリンが減少することで認知機能が低下すると考えられています。アセチルコリンエステラーゼ阻害薬は、アセチルコリンを分解する酵素に結合し、情報伝達物質が分解されないように作用する薬です。薬剤名は以下に記載。
〇ドネペジル(商品名_アリセプト)
適応:アルツハイマー型認知症・レビー小体型認知症
剤形:錠剤、細粒、D錠(口腔内崩壊錠)、内服ゼリー、ドライシロップなど豊富な剤形で患者に飲ませやすい。
〇ガランタミン(商品名_レミニール)
適応:アルツハイマー型認知症
剤形:錠剤、OD錠(口腔内崩壊錠)、内服液
〇リバスチグミン(商品名_イクセロンパッチ、リバスタッチ)
適応:アルツハイマー型認知症に
剤形:貼付剤のため、内服を嫌がる患者に使用される。
【NMDA受容体拮抗薬】
記憶に関連する神経伝達物質である「グルタミン酸」がアルツハイマー型認知症により過剰に発生することによって、その受け手となるNMDA受容体が過度に活性化しカルシウムイオンが過剰に脳神経に流れ神経細胞が損傷を受けるということがわかっています。NMDA受容体拮抗薬を使用すると、NMDA受容体に結合して過度なカルシウムイオンの流入を防ぐため、記憶の情報伝達を整え神経細胞を守る効果があると考えられています。
〇メマンチン塩酸塩(商品名_メマリー)
薬の副作用にはどんなものがありますか
〇抗アミロイドβ抗体(レカネマブ・ドナネマブ)の副作用
・主な副作用:脳の微小出血と脳のむくみ
微小出血であっても、血液をサラサラにする薬を服用している方の場合、大きな出血が起こる危険性があります。また、脳のむくみについてもひどくなると頭痛や意識障害・けいれんなどの症状を引き起こすこともあります。そのため、抗アミロイドβ抗体の投与を検討する場合は、必ず事前にMRI検査を行い、このような副作用が起きやすい状態ではないことを確認し、治療開始後も定期的にMRI検査を行うことが定められています。
・その他の副作用:点滴薬であるため頭痛・発熱・悪寒・めまい・吐き気・嘔吐などの症状が出ることも報告されています。
〇アセチルコリンエステラーゼ阻害薬の副作用
吐き気・食欲低下・徐脈など
〇NMDA受容体阻害薬の副作用
めまい・頭痛
副作用があった場合どうしたらよいでしょうか
上記のような副作用があった場合は、すみやかに担当医師に相談してください。
医師の判断で別の薬に変えたり、服薬量を調整したりすることがあります。自己判断で中断してしまうと、薬の効果で穏やかに保たれていた症状が悪化し、再び認知症の進行が早くなったり、性格に攻撃性が増してイライラする状態が多く見られたりします。
認知症に使用する薬代はどのくらいかかりますか
抗アミロイドβ抗体薬であるレカネマブやドナネマブの場合は薬価が高く、1年間の治療で約300万円程度かかると言われています。公的保険の適用で自己負担額は年間30万円~100万円程度とかなり高額となりますが、高額療養費制度を利用することで自己負担額をそれよりも軽くすることは可能です。ただしそれ以外にも、治療前・治療中の各種検査費用や外来診療費または入院費用などもかかります。レカネマブやドナネマブの投与は、事前検査で投与対象となった方のみが受けられる治療ですが、将来に備えて、民間の保険会社で対応している認知症保険や医療保険・介護保険などを準備しておくと、いざ対象となった場合にも安心して希望する治療が受けられるでしょう。
また、アセチルコリンエステラーゼ阻害薬やNMDA受容体阻害薬など他の治療薬については、薬剤費はひと月あたり数千円となりますので自己負担額もそれほど高額にはならないようです。医師と相談し、ご本人の症状に合わせた適切な治療を受けられるよう、保険制度などをうまく利用できると良いでしょう。
まとめ
認知症は、高齢化が進むわが国では深刻な社会問題となっており、その数は年々増加傾向にあります。誰でも認知症となり得るという認識をもって、本人がより長く自分らしく自立した生活を継続できるようにするため、また、介護開始時期をなるべく遅くさせるためにも認知症は早期発見が第一です。認知症は本人の自覚より、周囲の人が気づくことが多いため、自分の周りに思いあたる人がいたら言動や身だしなみなどを観察し、認知症の始まりかもと思ったら専門医への受診を勧めたり、付き添って一緒に行くなどの行動が大切です。大切な人が長く元気でいられるよう、周囲と連携したサポート体制を築いておくと良いでしょう。
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JCVN編集部
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