【掲載日】2024/12/23
高齢者がノロウイルスに感染してしまった際の症状と対策とは?
ノロウイルスの基礎知識と高齢者への影響
急性胃腸炎の原因として代表的なウイルスであるノロウイルスは、非常に感染力が強く、わずかな量でも体内に入ると発症することが多いです。
ここでは、ノロウイルスに感染した場合に発症する症状や感染経路、高齢者が感染した場合のリスクや注意点、予防策についても詳しく紹介します。
ノロウイルスの基本情報
ノロウイルスは非常に小さなウイルスで冬場に流行しやすく、人の腸内に入り込むと吐き気や嘔吐、下痢、腹痛などを伴う激しい胃腸炎の症状を引き起こします。
主に海水や河川などの水中、下水処理が不十分な場所に生息し、このような環境に生息している牡蠣やアサリなどの二枚貝が水中のノロウイルスを濾過して体内に蓄積することがあり、これらを生食すると感染のリスクが高まります。
また、ノロウイルスに感染した者の腸内でさらに増殖するため、感染者の便や嘔吐物には大量のウイルスが含まれています。便や吐物に直接ふれていなくても、感染者が使用したトイレやドアノブに触れたり、空気中に飛散したウイルスを吸い込んだりすることで感染が周囲に拡大します。
高齢者への影響とリスク
65歳以上の高齢者や免疫力の低い人の場合、ノロウイルスの症状がきっかけとなって様々な合併症を引き起こすことや、死亡にいたるリスクもあります。
重症化の可能性と死亡率
高齢者は若い人に比べて免疫機能が低下し、加齢に伴い胃腸の機能も低下しています。そのため、少量のウイルスでも感染しやすく、胃酸などの自然な防御機能が十分に働かず、ノロウイルスが腸内で活発に増殖しやすくなります。
また、ノロウイルスによる嘔吐で吐瀉物が気道に詰まってしまったり、誤嚥性肺炎にかかり死亡に至るケースも稀にあります。
合併症のリスク(脱水症状や誤嚥性肺炎)
ノロウイルス感染による下痢や嘔吐などにより体内の水分が大量に排出されてしまうと、体内の水分バランスが崩れ、脱水症状に陥ることがあります。
また、ノロウイルス感染時には、嘔吐が頻繁に発生します。このとき、吐瀉物が誤って気道に入り込んでしまい、誤嚥性肺炎が発生することがあります。特に、嚥下機能が低下している高齢者は、誤嚥性肺炎が発生するリスクがとても高くなります。
高齢者がノロウイルスに感染しやすい理由
ノロウイルスは年令や性別にかかわらず感染力が強い感染症です。
その中でも高齢者の場合は、基礎疾患を抱えている方や免疫力・消化器官機能の低下などにより体を防御する力が弱まっており、病院や介護施設などの集団生活による感染リスクが高いため、ノロウイルスに感染しやすいです。
加齢による免疫力の低下
年齢を重ねると、身体の免疫システムが弱くなり、ウイルスや細菌への抵抗力が減少します。
特に、胃酸の分泌量が減少していたり腸内の免疫が衰えたりすると、ウイルスの殺菌効果が低下して消化器官内の防御機能が弱まり、ウイルスの増殖を抑えることが難しくなってしまいます。
また、高齢者は糖尿病、高血圧、心臓病といった基礎疾患を抱えていることが多く、腎臓や肝臓の機能が低下していると体内からウイルスを排出する力が弱くなってしまっているため、感染が長引いたり重症化したりする原因となります。
生活環境が感染リスクを高める理由
家庭内にノロウイルス感染者がいる場合、感染者の嘔吐物や便が付着しやすいトイレや洗面所が主な感染経路となります。使用したトイレのドアノブや水道の蛇口に第三者が触れることで感染が広がる可能性があります。
また、多くの人が密集する学校、病院、介護施設などでは、清掃や消毒が不十分だとウイルスが空気中に漂ってしまいノロウイルスの伝播リスクが高まります。特に冬季は乾燥しているためウイルスが長期間一定の場所に留まりやすく、多くの人々が同時に感染するケースが見られます。
その他、生食用の二枚貝(牡蠣など)はノロウイルスを蓄積していることがあり、加熱不十分な状態で食べると感染するリスクがあります。
ノロウイルスによる症状とその重篤度
ノロウイルスが人の腸内に入り込むと、感染後24〜48時間の潜伏期間を経た後に激しい胃腸炎の症状を引き起こします。これらの症状は通常1〜3日程度続きますが、小児や高齢者が感染すると脱水症状などの重症化に至ることもあります。
主な症状(嘔吐、下痢、腹痛)
嘔吐(おうと)
胃がムカムカするような前兆があり、突然吐き気に襲われたり、子どもの場合は何度も嘔吐することがあります。
下痢
急な便意や水様性の下痢が、1日に数回から多い場合は何十回も繰り返されることがあります。
腹痛や腹部の不快感
胃のあたりや腸のあたりに強い痛みやお腹の張りが感じられることあり、下痢と共に痛みが増すことが多いです。
発熱
まれに37〜38度の微熱が続くことがありますが、インフルエンザのように高熱になることはあまりありません。
全身の倦怠感
激しい胃腸炎の症状や脱水症状などから体力が消耗し、強い疲労感や倦怠感を感じることがあります。
症状の重篤度と影響
脱水症状
ノロウイルスによる激しい嘔吐や下痢の症状は、筋力が衰えている高齢者の体力を著しく低下させてしまいます。また、吐き気や下痢により体内の水分が失われやすく、高齢者は喉の渇きを感じにくいため脱水症状が進行しやすいです。さらに重度の脱水は腎不全や意識障害を引き起こし、命に関わる場合もあります。
誤嚥性肺炎
ノロウイルス感染時には、嘔吐が頻繁に発生します。高齢者の場合、嚥下機能(飲み込む力)が低下していることが多く、嘔吐物を誤って気管に吸い込むことがあります。さらに咳反射も弱まっているため、気道に入った異物を排出できず、肺に細菌が繁殖して炎症が発生することがあります。誤嚥性肺炎は高齢者にとって命に関わる重篤な状態であり、ノロウイルス感染後の重要な合併症のひとつです。
高齢者を守るためのノロウイルス対策
高齢者にとって、ノロウイルス感染は命に関わる症状でもあるため、感染を防ぐためにも予防策を徹底し、万が一感染が発覚したあとも早期対応する必要性があります。
感染予防の基本的対策
手洗い
ウイルスは目に見えないため、公共の場所や人が密集する場所などでは知らず知らずのうちに手や指にウイルスが付着してしまいます。それを洗い流さずに食事をしたり、顔に触れたりすると体内にウイルスが簡単に侵入してしまい、ノロウイルスに感染してしまいます。
外出先から帰宅した際や、食事前、トイレの後は、必ず石けんで手を洗いましょう。特に指先や爪の間の汚れは落ちにくくウイルスや細菌が残りやすいので、入念に洗うことが大切です。
食品の加熱と煮沸消毒
ノロウイルスは耐性が高いウイルスで、酸や冷凍保存にも強く、通常の食品保存方法では死滅しないため、特に生食で食べる機会が多い二枚貝や調理器具を介した感染が起こりやすいです。
しかし、ノロウイルスは熱に弱い性質を持っており、85〜90℃で90秒以上加熱するとウイルスが持つタンパク質や遺伝物質が高温により変性し、ウイルスの構造が破壊され感染力を失います。
調理の際には食品の中心部がこの温度に達するまで加熱したり、調理器具を使用する前に80℃以上の熱湯で煮沸消毒したりすることで感染を予防することができます。
消毒
家庭内にノロウイルス感染者がいる場合、感染者からの嘔吐物や便には大量のウイルスが含まれています。清掃時にはビニールやゴム製の手袋を装着し、次亜塩素酸ナトリウム(塩素系漂白剤)を使って消毒しましょう。
なお、感染対策の一環として様々な場所で導入されているアルコール消毒については、実はノロウイルスに対してはあまり効果が見られません。ノロウイルスはインフルエンザウイルスなどが纏っている脂肪膜を持っておらず、アルコールの脱脂作用の影響を受けることがないので注意しましょう。
高齢者施設における具体的な対策
ノロウイルスは感染力が非常に強く、免疫力が低下していることが多い高齢者が集まる介護施設などでは、一人の感染源が重大な脅威となり得ます。
また、高齢者がノロウイルスに感染すると重症化するリスクが高いため、施設全体で徹底した対策を講じる必要があります。
感染源の遮断
手洗い、調理衛生、食品の加熱など、ウイルスの侵入を防ぐ対策を徹底します。
特に、感染予防の基本となる手洗いは、トイレの後や食事前には石けんを使って丁寧に手洗いする習慣を高齢者本人に身に付けさせるとともに、介護者や施設職員も一緒に手洗いをしていることを意識づけさせるようにサポートすることが重要です。
環境衛生の維持
施設内の清掃や消毒を強化し、ウイルスが広がりにくい環境を保ちます。
高齢者が触れやすい床や手すり、ドアノブなどは定期的に塩素系消毒剤(次亜塩素酸ナトリウム)で清掃します。
また、嘔吐物や排泄物で汚れた衣類や寝具はビニール袋に入れ、他の物と分けて洗浄・消毒しましょう。
感染者の隔離と管理
感染が疑われる者や感染者が発覚した場合、該当者を隔離できる部屋を早急に用意することで他の利用者が接触しないよう動線を分断し、必要最低限の職員のみが対応することで他の利用者や職員への感染拡大を防ぎます。
また、該当者の対応時には防護具(マスク、手袋など)を着用し、使用後は適切に廃棄します。
高齢者がノロウイルスに感染した場合の注意事項
ノロウイルス感染による脱水症状や衰弱状態が進行すると、高齢者の場合は命に関わることもあるため早期対応と適切なケアが必要となります。
特に、ノロウイルス感染による嘔吐や下痢といった症状は、体内の水分が短時間で大量に失われるため、水分補給が非常に重要です。スポーツドリンクや経口補水液を短い間隔でこまめに飲むことが効果的です。
また、胃腸が過敏な状態となっているため食事は無理に摂取せず、嘔吐や下痢がある程度治まり、胃腸が落ち着いてから消化しやすいものを少量ずつ摂りましょう。
重症化のサインとその対処法
ノロウイルスに高齢者や免疫力の低下した人が感染した場合、脱水症状や合併症が進行するなどの重症化に至るリスクがありますので、重症化に至る前の危険なサインを早期に見つけ、適切に対応しましょう。
ノロウイルス感染中に、口腔内の渇き、乾燥肌、排尿量の減少や排尿の色味が黄色いなどの変化が見られる場合は、極度の脱水状態である可能性が高いです。
速やかに経口補水液などで水分補給を行い、安静を保ちましょう。
また、嘔吐が続いている場合、誤って気道に嘔吐物を吸い込んでしまうことで誤嚥性肺炎を引き起こすことがありますので、飲食の際には一口の量をなるべく少なくし、ゆっくり食べさせるようにしましょう。
入院が必要な場合の判断基準
ノロウイルスは通常、数日間の嘔吐や下痢のみの症状で時間とともに回復しますが、症状が長く続く場合や、以下のような症状が見られ重症化している場合には速やかに医療機関を受診しましょう。
1. 重度の脱水症状
嘔吐や下痢が続くと、体内の水分と電解質が急速に失われ、脱水症状を引き起こします。排尿回数が著しく減少した、激しい乾きを感じる、低血圧や意識朦朧などの症状が見られる場合には水分補給だけでの改善は難しく、点滴や適切なケアが必要となります。
2. 嘔吐や下痢が止まらない
嘔吐や下痢が2日以上続き、まともに水分や食事を摂取できない場合、体力の急激な低下や栄養不足が懸念されます。点滴や流動食などでの栄養摂取が不可欠となります。
3. 誤嚥性肺炎が疑われる場合
嘔吐物が気道に入ることで、誤嚥性肺炎を引き起こすことがあります。ノロウイルス感染に伴い、咳が止まらない、呼吸困難、発熱といった症状が見られた場合は入院治療が必要です。
まとめ
ノロウイルスは、特に冬場に流行する感染力の強いウイルスで、嘔吐や下痢などの胃腸炎の症状を引き起こすほか、高齢者の場合には極度の脱水症状や誤嚥性肺炎などの合併症を伴うリスクがあります。
ノロウイルスに感染しないためにも、感染予防の基本となる手洗いうがいを欠かさず、消毒や食品加熱などの対策を入念に行うことで感染経路をある程度防ぐことができます。
また、万が一感染した場合は、水分補給をしっかり行い、早めに医師の診察を受けるようにしましょう。
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